ダックスフンドは見た目の愛らしさとは裏腹に、もともとアナグマ猟のために作出された猟犬です。その小さな体には驚くほどのスタミナと運動欲求が備わっており、適切な運動は身体的な健康だけでなく、精神的な安定にも不可欠です。
しかし、ダックスフンドの運動には大きな注意点があります。胴長短足という特有の体型は、脊椎、特に椎間板に大きな負荷がかかりやすく、椎間板ヘルニア(IVDD)のリスクが他の犬種と比べて非常に高いのです。Canine Genetics and Epidemiology 誌に掲載された大規模調査によると、ダックスフンドのIVDD発症率は全犬種中で最も高く、生涯で約19〜24%が発症するとされています。
つまり、ダックスフンドの運動は「十分に動かすこと」と「腰を守ること」の両立がテーマです。この記事では、年齢別の運動量の目安、安全な運動方法、避けるべき動作、室内遊びのアイデアまで、科学的根拠に基づいて包括的に解説します。
ダックスフンドに必要な運動量の目安
ダックスフンドの1日に必要な運動量は、年齢・体格・健康状態によって異なりますが、一般的な成犬の場合、1日30分〜60分の散歩が目安とされています。これは1回でまとめて行う必要はなく、朝晩に分けて行うのが理想的です。
運動量が不足すると、以下のような問題が生じやすくなります。
- 肥満: ダックスフンドは食欲旺盛で太りやすい犬種です。運動不足は体重増加の最大の原因のひとつであり、体重の増加は腰への負担を直接的に増やします。
- 問題行動: 運動欲求が満たされないと、無駄吠え、家具の破壊、穴掘り行動などの問題行動として表れることがあります。
- 筋力低下: 適度な運動は背骨を支える体幹の筋肉を維持するために不可欠です。運動不足による筋力低下は、IVDDのリスクをさらに高めます。
一方、過度な運動もまた危険です。長時間の激しい運動や脊椎に衝撃が加わる動作は、椎間板への負担を増大させます。ダックスフンドの運動は「適度で安全」がキーワードです。
年齢別の散歩時間と運動プラン
子犬期(〜12ヶ月)
子犬の骨格と関節はまだ発達途中であり、過度な運動は成長に悪影響を及ぼします。英国ケネルクラブが推奨する「月齢×5分ルール」が参考になります。つまり、生後3ヶ月なら1回15分、生後4ヶ月なら1回20分が目安です。
- 散歩: 1日2回、上記の時間を目安に短い散歩を行います。
- 遊び: 自発的な遊びは制限する必要はありませんが、階段の上り下りやソファからの飛び降りは避けましょう。
- 社会化: この時期は運動量よりも、さまざまな環境・音・人・犬に触れさせる社会化が優先です。散歩は体力づくりだけでなく、社会化トレーニングの場でもあります。
- 休息: 子犬は遊びすぎると疲労が蓄積しやすいため、適度な休息を挟みましょう。
成犬期(1〜7歳)
ダックスフンドが最もアクティブに活動できる時期です。
- 散歩: 1日2回、各20〜30分(合計40〜60分)が基本です。歩くペースは犬のリズムに合わせ、匂いを嗅ぐ時間も大切にしましょう。匂いを嗅ぐ行為は犬にとって情報収集であり、精神的な満足感を高めます。
- 遊び: 散歩に加えて、ボール遊びやノーズワーク(嗅覚を使った遊び)などの知的刺激を取り入れましょう。ただし、フリスビーのような高くジャンプする遊びは避けてください。
- 体重管理: 成犬期は最も太りやすい時期でもあります。運動量と食事量のバランスを常に意識し、BCS(ボディコンディションスコア)で定期的に体型をチェックしましょう。
シニア期(7歳〜)
加齢とともに筋力や関節の柔軟性が低下し、運動量を調整する必要があります。
- 散歩: 1日2回、各15〜20分程度に短縮します。ペースを犬に合わせ、休憩を挟みながら無理のないように歩きましょう。
- 強度の調整: 平坦な道を選び、坂道や段差はできるだけ避けます。寒い日は関節が硬くなりやすいため、散歩前に室内で軽くウォームアップさせると良いでしょう。
- 観察: 散歩中や散歩後に歩き方がおかしい、足を引きずる、座り込むなどの変化が見られたら、早めに動物病院で検査を受けてください。
散歩時の注意点
暑さ対策
ダックスフンドは地面からの距離が非常に近い犬種です。夏場のアスファルトは60℃以上に達することがあり、肉球のヤケドだけでなく、地面からの輻射熱で熱中症のリスクも高まります。
- 散歩の時間帯: 夏は早朝(6時〜7時)と夕方(日没後)に散歩するのが鉄則です。
- 路面チェック: 手の甲をアスファルトに5秒間押しつけて、熱くて耐えられない場合は散歩を見送りましょう。
- 水分補給: 散歩中はこまめに水を与えましょう。携帯用のウォーターボトルを持ち歩くと便利です。
路面と地形
- 滑りやすい路面: タイルやマンホールのフタなど、滑りやすい場所では足を取られて腰をひねる危険があります。
- 段差の回避: 縁石や階段は、ダックスフンドの脊椎に負担をかけます。段差がある場合は抱き上げて越えるか、スロープがある経路を選びましょう。
- 草地や土の道: コンクリートよりも衝撃を吸収するため、関節に優しい散歩コースです。積極的に取り入れましょう。
ハーネスの使用
ダックスフンドの散歩には首輪ではなくハーネスの使用を強くおすすめします。首輪はリードを引いたときに首と頸椎に負荷が集中しますが、ハーネスは力を胸や胴体に分散させるため、脊椎への負担が大幅に軽減されます。
腰に安全な運動
ダックスフンドの脊椎を守りながら十分な運動量を確保するために、以下の運動がおすすめです。
平地の散歩
最もシンプルで安全な運動です。平坦な道をリズムよく歩くことで、体幹の筋肉を維持しながら心肺機能も向上させます。ただし、リードを引っ張って急に走り出したり、急な方向転換を繰り返したりすると腰に負担がかかるため、穏やかなペースで歩きましょう。
ノーズワーク(嗅覚ゲーム)
犬は嗅覚を使うことで大量のエネルギーを消費します。おやつやお気に入りのおもちゃを隠して探させるノーズワークは、体への負担がほとんどなく、精神的な疲労感と満足感を同時に与えられる理想的な運動です。嗅覚を集中的に使う15分間のノーズワークは、30分の散歩に匹敵するエネルギー消費をもたらすとも言われています。
水泳(ハイドロセラピー)
水泳は関節や脊椎への負荷がほぼゼロでありながら、全身の筋肉を使う優れた有酸素運動です。水の浮力によって体重が支えられるため、IVDDのリスクがある犬や、関節に問題を抱えるシニア犬にも適しています。
ただし、ダックスフンドは足が短く体が重いため、泳ぎが得意とは言えません。水泳を始める際は、浅いプールから徐々に慣らし、必ず犬用ライフジャケットを着用させてください。飼い主が近くで見守り、犬が疲れたらすぐに上がれるようにしましょう。

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小型犬に適したサイズ設計の犬用ライフジャケット。高浮力素材で水泳中の安全を確保し、背面の救助ハンドルで緊急時にもすぐに引き上げられます。反射ラインで視認性も高く、調節可能なベルトで体にフィットします。ダックスフンドの水泳デビューにおすすめです。
コントロールされたボール遊び
ボールを低い弾道で転がし、犬が走って取りに行く遊びは適度な運動になります。ただし、ボールを高く投げてジャンプさせたり、急ブレーキをかけさせたりする遊び方は脊椎に大きな負荷がかかるため避けましょう。
避けるべき運動と動作
以下の運動や動作は、ダックスフンドの脊椎に大きな負担をかけるため、できるだけ避けてください。
ジャンプ: ソファやベッドからの飛び降り、人に飛びつく動作、フリスビーキャッチなど、着地時の衝撃が椎間板に直接伝わります。家具にはペット用のステップやスロープを設置し、ジャンプの必要がない環境を作りましょう。
階段の頻繁な上り下り: 階段は脊椎を反復的に屈曲・伸展させるため、椎間板への負担が蓄積します。やむを得ず階段を使う場合は、抱き上げて移動させましょう。
フリスビー: 空中でキャッチする際の体のひねりと着地の衝撃は、IVDDの原因として最もリスクが高い動作のひとつです。
過度な引っ張りっこ遊び: 首や背骨に急な力がかかるため、強く引っ張る遊びは控えめにしましょう。軽く引っ張り合う程度なら問題ありませんが、犬が興奮して激しく首を振る場合は中止してください。
長距離のランニング: ダックスフンドの足は短く、長時間の走行は脊椎への反復的な衝撃を与えます。ジョギングの伴走犬には不向きです。
室内遊びのアイデア
天候が悪い日や、外出できない状況でも、室内で愛犬の運動欲求を満たすことは十分に可能です。
知育おもちゃ
おやつを中に詰められる知育おもちゃは、犬が頭と体を使っておやつを取り出す過程で、精神的な刺激と適度な運動を同時に提供します。コングのような丈夫なゴム製おもちゃの中にペースト状のおやつを詰めて与えると、長時間集中して遊んでくれます。

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世界中の獣医師やドッグトレーナーが推奨する知育おもちゃの定番。天然ゴム製で耐久性が高く、中におやつやペーストを詰めて使います。不規則にバウンドするユニークな形状が犬の好奇心を刺激し、留守番時の退屈解消にも効果的です。ダックスフンドにはSサイズが適しています。
宝探しゲーム
おやつを部屋のあちこちに隠して探させるゲームは、嗅覚と頭を使う優れた室内運動です。最初は見つけやすい場所から始め、慣れてきたら難易度を上げていきましょう。ダックスフンドは猟犬としての嗅覚が優れているため、このゲームが大好きな子が多いです。
トリックトレーニング
「おすわり」「ふせ」「おて」などの基本コマンドに加えて、「回れ」「お辞儀」「ハイタッチ」などの芸を教えるトレーニングは、精神的な刺激になるだけでなく、飼い主との絆を深める効果もあります。1回のトレーニングは5〜10分程度にとどめ、成功したら必ず褒めてご褒美を与えましょう。
引っ張りっこ(穏やかに)
ロープ状のおもちゃを使った穏やかな引っ張りっこは、室内でも手軽にできる運動です。ただし、犬の頭が上下に激しく揺れない程度の力加減で行い、犬が興奮しすぎたら一度中断しましょう。
雨の日の運動不足解消法
雨の日が続くと、ダックスフンドの運動不足が心配になります。以下の方法で室内でも十分に運動欲求を満たしましょう。
室内ノーズワーク: 前述の宝探しゲームは、雨の日の定番です。フードをマフィン型に入れてテニスボールでフタをし、犬がボールをどかしてフードを取り出すパズルも効果的です。
トレッドミル: 犬用トレッドミルがあれば、天候に左右されず散歩と同様の運動ができます。導入する場合は、最初は電源を入れずに慣らし、ゆっくりとした速度から始めてください。
室内の障害物コース: 椅子のトンネル、クッションの間をスラロームで歩く、ブランケットの下をくぐるなど、身近なもので簡単なコースを作れます。ジャンプを含む障害物は避け、くぐる・歩く動作を中心にしましょう。
ペット同伴の屋内施設: 犬同伴OKの商業施設やドッグカフェ、室内ドッグランなどを利用するのも良い選択肢です。ただし、室内ドッグランでは他の犬とのぶつかり合いに注意してください。
運動後のケア
運動の後は、愛犬の体調をしっかりチェックしましょう。
歩き方の確認: 散歩後に足を引きずっていたり、腰をかばうように歩いていたりしないか確認します。異常が見られた場合は、運動量を減らして様子を見るか、動物病院を受診しましょう。
肉球のチェック: 散歩後は肉球に傷や異物がついていないか確認しましょう。夏場はアスファルトによるヤケドの兆候(赤み、水ぶくれ)、冬場は融雪剤による炎症がないかもチェックします。
水分補給: 運動後はしっかり水を飲ませましょう。特に夏場は脱水に注意が必要です。
休息: 運動後は静かに休ませてあげましょう。ダックスフンドは興奮が持続しやすい犬種ですが、クールダウンの時間を設けることで、関節や筋肉の回復を促します。
よくある質問(FAQ)
Q. ダックスフンドは1日何回散歩に行くべきですか?
成犬の場合、1日2回の散歩が理想的です。朝と夕方に各20〜30分ずつが基本的な目安ですが、犬の年齢や体調に応じて調整してください。1回の長い散歩よりも、短めの散歩を2回に分けるほうが、ダックスフンドの腰への負担は少なくなります。また、散歩だけでなく、ノーズワークや知育おもちゃなどの精神的な刺激も運動の一部として組み合わせると効果的です。
Q. IVDDと診断されたダックスフンドでも運動は可能ですか?
IVDDの診断を受けた場合は、必ず獣医師の指示に従ってください。軽度のIVDDでは、安静期間の後に穏やかな散歩から徐々に運動を再開できるケースが多いです。水中ウォーキング(ハイドロセラピー)はリハビリ運動として獣医師から推奨されることがあります。重度の場合や術後は、獣医師やリハビリ専門家の管理のもとで段階的に運動量を増やしていくことが重要です。自己判断での運動再開はリスクが伴いますので、必ず専門家に相談しましょう。
Q. ダックスフンドはドッグランに連れて行っても大丈夫ですか?
ドッグランの利用自体は問題ありませんが、いくつかの注意点があります。大型犬と同じエリアで遊ぶと、衝突やぶつかり合いによるケガのリスクがあります。できれば小型犬専用のエリアがあるドッグランを選びましょう。また、興奮して急なダッシュや急停止、他の犬との追いかけっこで激しくジャンプするといった行動は腰に負担がかかります。飼い主が近くで見守り、興奮しすぎたら一度リードにつないでクールダウンさせることが大切です。
Q. 雨の日が何日も続いた場合、運動不足でストレスが溜まっているサインは?
運動不足によるストレスサインとして、無駄吠えが増える、家具やスリッパを噛む、落ち着きがなくなる、尻尾を追いかけてぐるぐる回る、食糞行動が見られるなどの変化が挙げられます。これらの兆候が見られたら、室内でのノーズワークや知育おもちゃ、トリックトレーニングなどで精神的な刺激を増やしましょう。体を動かすだけでなく、頭を使う遊びも運動不足のストレス解消に非常に効果的です。
まとめ
ダックスフンドの運動管理は、「十分な運動量を確保すること」と「脊椎への負担を最小限にすること」の両立が求められます。適切な運動は、肥満予防、筋力維持、精神的な安定、そしてIVDD予防に直結する重要な要素です。
日々の散歩を基本に、ノーズワークや知育おもちゃなどの精神的刺激、そして水泳のような腰に優しい運動を組み合わせることで、バランスの良い運動プランが実現できます。一方、ジャンプ、階段の繰り返し、フリスビーなど脊椎に衝撃が加わる動作は避け、日常生活の環境にも配慮(ステップの設置、滑り止めマットなど)しましょう。
年齢やその日の体調に合わせて柔軟に運動量を調整し、散歩後のチェックを怠らないことが、愛犬と長く楽しく暮らすための基盤です。「動かしすぎず、動かさなすぎず」のバランスを意識して、安全で楽しい運動ライフを送りましょう。




