ダックスフンドを飼ううえで、最も注意すべき病気のひとつが**椎間板ヘルニア(IVDD: Intervertebral Disc Disease)**です。ダックスフンドは全犬種のなかでもIVDDの発症率がとりわけ高く、ある研究では生涯で約19〜24%の個体が発症するとされています。しかし、日常生活のなかで適切な予防策を講じることで、発症リスクを大幅に下げることが可能です。
この記事では、IVDDの原因やメカニズムから、症状の見分け方、予防のための具体的な対策、そして万が一発症した場合の治療法まで、獣医学的な知見に基づいて詳しく解説します。
椎間板ヘルニア(IVDD)とは?なぜダックスフンドに多いのか
椎間板ヘルニアとは、背骨の椎骨と椎骨の間にあるクッション(椎間板)が変性・突出し、脊髄や神経を圧迫する疾患です。人間にも起こる病気ですが、ダックスフンドは遺伝的に「軟骨異栄養症(Chondrodystrophy)」と呼ばれる体質を持っています。
この体質により、若いうちから椎間板の中心部(髄核)が石灰化しやすく、弾力性を失った椎間板が衝撃に弱くなります。ダックスフンド特有の胴長短足の体型は、背骨にかかる力学的負荷を増加させるため、椎間板への負担がさらに大きくなります。
IVDDには大きく分けて2つのタイプがあります。
- ハンセンI型: 石灰化した髄核が急激に突出するタイプ。若い犬(3〜6歳)に多く、突然の激しい痛みや麻痺を引き起こします。ダックスフンドで多いのはこのタイプです。
- ハンセンII型: 椎間板が徐々に膨隆するタイプ。加齢とともに進行し、慢性的な症状が出やすいです。
IVDDの症状と重症度グレード
IVDDの症状は、圧迫の程度に応じて5段階のグレードに分類されます。早期発見が予後を大きく左右するため、以下のサインを見逃さないようにしましょう。
グレード1(軽度の痛み): 背中を触ると痛がる、抱き上げると鳴く、階段を嫌がる、背中を丸める。
グレード2(中等度の痛みと軽い麻痺): 歩き方がふらつく、後ろ足がもつれる、立ち上がりにくそうにする。
グレード3(重度の麻痺): 後ろ足を引きずって歩く、自力で排尿が困難になる。
グレード4(完全麻痺): 後ろ足が完全に動かないが、深部痛覚(つま先を強くつまんだときの反応)は残っている。
グレード5(深部痛覚の消失): 後ろ足の完全麻痺に加え、深部痛覚も消失。最も重篤で、緊急手術が必要です。
グレード1〜2の段階で動物病院を受診できれば、保存療法で回復できるケースが多くあります。「いつもと動きが違う」と感じたら、迷わず受診してください。
IVDDを予防するための7つの対策
1. 段差の昇り降りを減らす
ソファやベッドへのジャンプは、背骨に大きな衝撃を与えます。犬用のスロープやステップを設置して、段差の負担を軽減しましょう。

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2. 適正体重を維持する
肥満は背骨への負荷を増大させ、IVDDの発症リスクを高めます。体重管理は最も基本的かつ効果的な予防策です。定期的に体重を測り、BCS(ボディコンディションスコア)を確認しましょう。
3. 抱き上げ方に注意する
ダックスフンドを抱き上げるときは、必ず胸とお尻の両方を支え、背骨が水平になるようにしましょう。片手で首の後ろをつかんだり、お腹だけを支えて持ち上げるのは厳禁です。
4. 滑りやすい床を対策する
フローリングなど滑りやすい床は、踏ん張るたびに背骨に不自然な力がかかります。カーペットやマットを敷いて、足が滑らない環境を整えましょう。
5. 適度な運動を継続する
背中を支える筋肉(体幹筋・傍脊柱筋)を維持するためには、適度な運動が欠かせません。毎日の散歩を継続し、筋力を保ちましょう。ただし、激しいジャンプやフリスビーなどは避けてください。
6. 関節サプリメントを活用する
グルコサミンやコンドロイチンなどの関節サプリメントは、軟骨の健康維持をサポートします。予防的に取り入れることで、椎間板の変性を遅らせる効果が期待できます。

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7. 定期的な健康診断を受ける
年に1〜2回の健康診断で、背骨の状態を早期にチェックしてもらいましょう。症状が出る前に異常を発見できれば、予防的な対応が可能です。
IVDDの治療法
保存療法(内科的治療)
グレード1〜2の軽度な症状の場合、安静と薬物療法による保存療法が選択されることがあります。通常4〜6週間の厳格なケージレスト(運動制限)と、消炎鎮痛薬やステロイドなどの投薬を組み合わせます。この期間中は散歩も控え、トイレ以外はケージ内で安静にさせます。
外科手術
グレード3以上、もしくは保存療法で改善しない場合は、外科手術が検討されます。代表的な術式は「片側椎弓切除術(ヘミラミネクトミー)」で、圧迫の原因となっている椎間板物質を除去します。
グレード5の場合でも、深部痛覚消失から48時間以内に手術を行えば、約50〜60%の確率で歩行が回復するとされています。ただし、時間が経過するほど回復率は下がるため、スピードが重要です。
リハビリテーション
手術後や保存療法後のリハビリも回復に大きく影響します。水中トレッドミル、マッサージ、レーザー治療など、専門的なリハビリ施設で行うプログラムが効果的です。
よくある質問(FAQ)
Q. IVDDは遺伝しますか?
はい、ダックスフンドのIVDDには強い遺伝的要因があります。FGF4遺伝子のレトロジーン挿入が軟骨異栄養症の原因であることが判明しており、この遺伝子はダックスフンドのほぼすべての個体が持っています。そのため、遺伝的リスクをゼロにすることは難しいですが、環境面での予防策でリスクを下げることが重要です。
Q. 何歳頃に発症しやすいですか?
ハンセンI型は3〜6歳での発症が最も多いとされていますが、2歳未満や10歳以上で発症するケースもあります。「若いから大丈夫」と油断せず、早い段階から予防対策を始めましょう。
Q. 手術費用はどれくらいかかりますか?
病院や地域によりますが、一般的にIVDDの外科手術は20〜50万円程度が目安です。MRIなどの精密検査費用を含めると、さらに高額になる場合があります。ペット保険への加入を検討しておくことをおすすめします。
Q. 一度発症したら再発しますか?
残念ながら、IVDDは再発の可能性があります。一度発症した犬は別の椎間板でも同様の変性が進んでいることが多いため、回復後も予防策を徹底し続けることが大切です。
まとめ
ダックスフンドにとってIVDDは避けて通れないリスクですが、日常生活での予防策によって発症率を大幅に下げることができます。段差対策、体重管理、正しい抱き方、適度な運動といった基本を日々実践し、異変を感じたら早めに動物病院を受診しましょう。愛犬の健康な背骨を守るのは、飼い主であるあなたの日々のケアにかかっています。




